健生病院「いのちの章典」
はじめに
日本は、第 2 次大戦直後の荒廃と食料危機の中で、食べること生きることがとても困難な時代がありました。当時は、医師も病院も不足し、いのちと暮らしは自らの手で守るより方法がありませんでした。こうした状況のなか、「お金の心配をせず安心してかかれる自分たちの病院がほしい」と願う津 軽の人々と、「医療に恵まれない働く人々のいのちと暮らしを守りたい」という医療従事者が集まり、知恵と力とお金を出しあい、1952 年 2 月 24 日、津軽保健生活協同組合を立ち上げ、健生病院をつくり発展させてきました。
その後の経済発展によって、社会全体は豊かになり、衣食住に困る社会ではなくなりました。しかし今日、格差社会が広がる中で、若者・女性・子ども・高齢者・非正規雇用者の間に急速に貧困が広がっています。病気になっても医療費が払えないために受診を我慢して亡くなる事例が全国で後を絶ちません。
経済的な貧しさや社会の不平等によって、暮らしに大きな困難がもたらされ、人々が健康を損ない、いのちが脅かされる状況が、時代を超えた今もあります。
設立以来、津軽保健生活協同組合、健生病院が大切にしてきたことは、貧しさの故に困難にある人たちに寄り添うこと、そして、誰もが差別されることなく平等に医療を受けられ、健康で豊かに生きることのできる社会を地域の人々と共に実現することです。
健生病院は医療福祉生協の病院であり、民医連に加盟しています。
医療福祉生協の病院として
健生病院は、消費生活協同組合法に基づく「医療福祉生協」の病院です。地域の人々が出資し、医療機関を所有・運営しています。地域の人々と医療従事者の協同によって、健康と暮らしに関する様々な問題を解決するための事業と運動を行っています。
民医連の加盟病院として
健生病院は、全日本民主医療機関連合会(略:民医連)に加盟しています。民医連が目指す「無差別・平等の医療と福祉の実現」「医療における患者・住民との共同」「疾病を労働と生活の視点から捉える」「安心して住み続けられるまちづくり」「戦争政策に反対し、平和と環境を守る」ことを、事業活 動を進める上での基本理念においています。
「健生病院 いのちの章典」は、健生病院の成り立ちを踏まえて、ともに生協を担う私たち地域住民と職員の権利と責任について明らかにしたものです。
1.自己決定に関する権利(知る権利 学習権 自己決定権)
私たちは、自分の病気や治療法について、自分に適した方法で、十分な説明を受け 1)、必要に応じて学習 2)し、自分が受ける医療について自由に決定し、自分らしい生き方を追求することができます 3)。
2.プライバシー・個人情報が守られる権利
私たちは、自分の個人情報が保護される権利があります。個人情報が公にされないということにとどまらず、情報の収集、利用目的の制限、保護、訂正を求めることができます。
3.安全・安心な医療、介護、福祉を継続して受ける権利
私たちは、文化的・社会的・経済的・宗教的 4) な違いや、身体的・精神的な障がいによる差別をうけず、誰もが安全で 5) 質の高い医療、介護、福祉を継続して 6) 受けることができます 7)。
4.地域の健康づくりに参加する権利
私たちは、地域のいのちとくらしを守り、健康をはぐくむ活動に参加することができます 8)。
5.社会保障の充実を求める権利と責任
私たちは、地域の医療機関等と協力し、行政にも働きかけながら、社会保障を充実・発展させる運動を主体的にすすめ、健康に暮らすことのできるまちづくりをめざします 9)。
附則
いのちの章典は、人権・医療の進歩を取り入れ、改定され、豊にされていきます。
- 2006年 8月 17日 施行
- 2017年 5月 25日 改定
注)
- 1)「知る権利」を支援する目的で「カルテ開示規定」が整備されており、自己に関わる全てのカルテ情報の開示を受けることが可能です。また、診断結果や治療方針について、他の医療機関の意見を求めることができるよう「セカンドオピニオン」規定が整備されています。(↑)
- 2)学習できる内容については、健康、病気に関する知識にとどまらず、医療、福祉、社会保障制度ま で含まれます。学習する権利を擁護する目的で、病院は書籍、各種学習のパンフレットの整備、掲示板の整備、学習会の開催など行う必要があります。(↑)
- 3)意識障害や認知症などのために、治療の意志決定をするだけの判断能力がない患者が増加しています。そうした場合、医療ケアにあたるチームは家族等患者の意向を推測し治療に関する意志決定ができる人(キーパーソン)と誠実に話し合い、患者の意向に沿った形での意思決定ができるように努力する必要があります。キーパーソンと医療ケアチームだけで治療方針が確定できない場合には、医療倫理委員会に諮問し、そこでの討議結果も参考にするようにします。(↑)
- 4)一例として、宗教的な理由から輸血を拒否しているエホバの証人の手術受け入れがあります。病院として、対応マニュアルを整備し、可能な限りエホバの証人の患者を受け入れることができるようにしています。(↑)
- 5)医療安全管理室、感染管理室を設け専従職員を配置し、医療安全、感染対策に関する定期的な調査、対策の立案を行い、必要な院内職員向けマニュアルを作成しています。定期的に職員教育を実施しています。(↑)
- 6)医療ソーシャルワーカー、看護師、ケアマネージャー、事務から構成されている地域連携室を設置し、病院と地域の医療、介護、福祉機関と連携し、適切な医療、介護、福祉サービスが提供できるように努めています。(↑)
- 7)医療の質を保つためには、患者、地域住民からの意見、苦情、要望をくみ上げることが大切です。患者相談室と虹の投書箱を通じてこうした声に耳を傾け、医療内容の改善に努めています。(↑)
- 8)健生病院ではヘルスプロモーションホスピタルネットワーク(HPH network)に加盟しています。 地域の健康づくりの拠点とし、これまでに、地域住民と病院職員の協力による「まちかど健康チェ ック」「孤独死防止のための地域訪問」や、病院職員が中心となって行っている「運動を中心とした健康教室の開催」などの活動に取り組みました。(↑)
- 9)国民健康保険資格証明書所持者や生活保護受給者が抱える困難、問題について、病院として市役所の担当部局と継続的に話し合いを持ち、可能な限り状況の改善に努めています。(↑)